揺らぐ景色は君の肩越し。   → お題配布 tiptoe 様




   「・・・・・・レナ、どうしたんだよ・・・」

   圭一くんに自分の名前を言われて、初めて気が付いた。
   だから、その理由は良く分からなかった。
   確かに今日一日、本当に楽しかったし、
   別にこれと言って悲しい出来事も無いと思う。
   だから、自分自身この状況が良く理解出来なかった。

   「・・・・・・大丈夫、か?」

   少し前屈みになって、圭一くんは私の様子を伺う。
   どう接して良いか分からないという風に、
   少し困った様に、心配しているかの様に。
   だから、別に何でも無いと言おうとした。
   別に理由なんて無い、と。
   実際、私にだって良く分からないのだから、
   圭一くんにこんな風に心配してもらう理由など、
   何も無いのだと。
   でも、声が掠れてうまく喋れなかった。
   この状況を否定しようとすればする程、逆に嗚咽が漏れる。
   抑えようとしても、抑えきれずに、自分の気持ちを無視して。

   「っ・・・・・・、レナは、さ、
   我慢しすぎなんだよ、普段から。
   自分の前にまず、他人だろ?
   少し位は我侭言っていいんだぜ?」

   優しくそう言いながら、圭一くんは私の頭をそっと引き寄せた。
   その、目を瞑る一瞬。
   自分の涙で揺らぐ景色が、圭一くんの肩越しに見えた。










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