約束。




   「ねぇ、圭一くん。
   あのね、一つだけ『約束』してくれる、かな、かな?」

   西日で教室が染まる頃、レナは急にそう切り出した。
   ちょっとはにかみながら、指を「一つだけ」と表して。
   今日の部活は既に終了し、梨花や沙都子は教室を後にしていた。
   いつも三人で帰宅するはずの魅音も、
   職員室に呼ばれて行き、まだしばらく教室へ戻って来る気配が無い。
   下校のチャイムが鳴り終わり、他の生徒達も下校した後で、
   教室内にはレナと圭一だけが残っていた。

   「・・・レナと圭一くんだけの、『約束』・・・」

   声のトーンを落として、
   まるで誰かに聞かれないようにしている様で
   圭一に向かって、更にレナが呟く。
   先程とは僅かに違う含み笑いをして、
   自分の小指を差し出しながら。
   昔、小さい頃、
   誰もがやったであろうあの約束の決まり文句を。

   「何だよレナ。ガキっぽいな〜」

   文句を混ぜながらも、圭一も小指を差し出した。
   「下らない」そんな雰囲気で、ぶっきらぼうに差し出す辺り、
   やはり照れくさかったのかもしれない。
   そんな圭一に、レナが一人微笑む。

   「・・・ありがとう、圭一くん・・・」

   教室には他に誰もいなくて、レナの懐かしい歌しか聞こえなかった。
   西日で、お互いに繋いだ小指の爪が、
   僅かに光るのが見えただけ――









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