たまには何か素敵な事でも。
――あの勾玉の存在理由が
内側だけの狭い空間のせいだと言うのならば、
私のこの行動にも
同様な理由を当てはめられる気がする。
「圭一は、レナに告白されて嬉しくなかったのですか?
例えそれが『フラワズの勾玉』のせいだとしても」
部活休みの放課後。
レナを待っていた圭一に、
私は前置きなく昨日の事を持ちかけた。
逆光のせいで、あまり顔色が伺えないが
単純な圭一の事、手に取るように表情が想像出来る。
それから、自分の質問に対しての答えも。
しかし、あえて私は圭一に聞いてみた。
理由は、単純な興味と、
それから
少しばかりの意地悪。
案の定、
少し乾いた声と、定まらない目線で
圭一は否定的な言葉を言った。
自分の想像と反しない回答に、
少し期待した自分を心中で笑いながら
それでも
自分自信の言葉で、彼が窮地に立たされた事に
こっそりとほくそ笑む。
「もしも、レナの立場だったら
その答えはちょっと悲しいのですよ。
だから・・・・・・」
僅かに言葉を詰めて、
ゆっくりと教室の扉を見つめながら。
驚く演技をした。
扉の前に、レナがいた事を
初めて知ったかのように。
――そう、これはちょっとした意地悪だから。
「・・・えっ・・・レ、レ、レナ!?
お、お、お帰り。
え、え〜と、は、早かったな。
もう用事は終わったのか?」
慌てて場を繕うかの様な圭一に対して、
レナは笑顔を向けた。
それは決して、
いつかの無理をして笑う笑顔では無く、
『部活』で勝った時の様な
本当に嬉しそうな笑顔のように見えた。
「うん、もう終わったよ〜。
待っててくれて、有難うなんだよ、だよ。
・・・それと、昨日は本当にありがとう。
すごく嬉しかった・・・
梨花ちゃんも、
――圭一くんも、」
報われない自分とつい比較して、
圭一とレナの関係を
少しばかりこじらせてやろうと思っていたけれど。
ほんの些細な意地悪も
功を奏しない。
まるで『フラワズの勾玉』の様に
お互いを必要としているようで・・・
意に反して、
何だか良い雰囲気になってしまった。
馬鹿馬鹿しくて
一緒にいる気にもなれない。
二人が止めるのを適当にあしらい、
私はさっさと教室を後にした。
学校を出ると
先程まで教室を照らしていた夕日が
若干色を濃くして田畑を染めていた。
先程の教室での光景に
自然と笑みが零れている自分の頬へ、
小さく舌打ちをしながら思いを馳せる。
少しばかりの悪戯も、
時には味わっても良いのではないかと。
繰り返し見る悪夢なら、たまには。
この無限ループには確かに
『素敵な事』は必要だから。
――ただし、『フラワズの勾玉』がもたらした
その『素敵な事』は、僅かな意地悪を
簡単に打ち崩してくれたけれど。
「明日の部活、どう攻め殺してあげよう・・・・・・なんてね」
不幸せが繰り返されるなら、
幸せもきっと同じ。