これからも。




   「・・・・・・・・・・・・・・・は?」

   ぬくぬくと温かいこたつの中で、
   ゆっくと寝返りを打ちながら、圭一は目を覚ました。
   そして、一瞬にして
   心地よいまどろみの中から、追い出されたのである。
   その、有り得ない光景を、目の前にして。
   全身が硬直したように。

   「・・・・・・・・・あー・・・・・・・・・これって・・・夢、だよな?・・・・・・」

   独り言を言いながら、誰もがそうするように、
   自分の頬をつねってみる。
   ――痛い。しかも、非常に。
   程良く温まった頬は、
   つねった事により、更に熱を帯びてしまった。
   それでも、
   眼前のそれが、現実の事であるとは受入れられない。
   再び、それが本物であるかどうか確認する為に、
   圭一はゆっくりと触れてみる事にした。
   始めは髪を、次には頬を――

   「・・・・・・・・・ちゃ、ちゃんと温かい、な・・・・・・・・・」

   痛覚に続いて、温度覚からも
   それの存在が証明されてしまい、
   圭一は、更に内心焦りを感じた。

   ――だって、まさか目を覚ましたら、
   自分の隣に、レナが寝ているなんて思わないだろ?

   圭一は、半ば呆然と、
   隣で眠るレナの寝顔を眺めていた。
   触れた指さえ、引っ込めるタイミングを失って。
   やがて、確認する為に触れた箇所が、
   徐所に熱を持ち始めた時、「――ん・・・」と
   小さな声を上げて、レナが目を覚ましたのである。
   その声でようやく
   自分がまだ、レナに触れたままである事を思い出し、
   圭一は慌てて指を離した。

   「・・・・・・あっ・・・・・・ご、ごめんね、圭一くん!」

   うっかり眠ってしまったらしく、
   起きたばかりのレナは
   一度大きく目を瞬せた後、開口一番に圭一に謝った。
   それから慌てたように、こうなってしまった経緯を説明する。

   「あ、あのね、おば様に言って上がらせてもらったんだけど、
   圭一くん、寝ちゃってて・・・
   その寝顔が可愛いかったから、つい・・・」
   「可愛い、って・・・」

   ――この年で『可愛い』って言われてもな・・・

   そこは流石のレナというべきか、何と言うか。
   そんな事を思いながらも、
   圭一は、目覚めた時の
   あの衝撃がやや薄まっていくのを感じていた。
   寝ぼけた頭では処理できない状況も、
   よくよく考えれば、
   友人が、ただこたつを共有していただけの事。
   それ以上でも、それ以下でもなく。

   「・・・あー、でも、レナ。
   わざわざ正月に訪ねて来たって事は、
   何か特別な用があったんじゃないのか?」
   「あ・・・うん、あのね?
   圭一くんとは・・・初めてお正月迎えるでしょ?」
   「そう言えば、そうだな」
   「だから――」

   そう言いながら、
   レナは、そっと圭一の目を覗きこんだ。
   いつもは、見下ろす形でレナを見ていたのに、
   今は、同じ目線の高さで
   しかも、こんな横になった至近距離の状態に
   先程とはまた違った意味で、圭一の身体は硬直する。
   特別な意味など無いと、解釈したばかりだったのに。

   「一番初めに言いたかったの、圭一くんに、
   『明けましておめでとう。今年もよろしく』って・・・・・・」

   そして、レナは笑った。
   いつもの部活動での楽しそうな笑顔では無く、
   もっと柔らかい感じの笑顔で――
   だから、
   圭一も笑いながらレナに答えていた。
   仮に、レナに特別な意味なんか無く
   純粋に新年の挨拶に来てくれたとしても、
   自分には意味ある事だから。

   「・・・・・・こちらこそ、明けましておめでとう。
   それから『これからも、ずっとずっと、よろしく』だからな!」
   「――うん!」

   また年が明けても、これからもずっと。










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