恋のハジマリ。




   ――この気持ちのはじまりは、あの言葉から。


   「・・・初めまして、前原圭一です・・・・・・」
   学年分けさえ儘ならない分校の、この雛見沢に、
   東京から一人の男の子が転校して来た。
   名前は、前原圭一くん。
   初めの出会いは、圭一くんの、そんなぎこちない挨拶からだった。
   仲良くなれるか、期待と不安半分だったけれど。
   気取らない圭一くんの態度に、
   魅ぃちゃんを始め、
   沙都子ちゃんも、梨花ちゃんも
   すぐに仲良くなれたの。
   もちろんレナも例外じゃなくて。
   まるで、ずっとずうっと以前から、
   もう何年も親友みたいな、そんな仲間同士に。

   圭一くんが転校してくる以前も、もちろん素敵な日々だったけれど。
   でも圭一くんが引っ越して来てくれて、
   もっと楽しい日々になった。
   毎日が楽しくて、嬉しくて、
   永遠に続いて欲しい程に。
   でも圭一くんの、あの時の一言が、
   この楽しい日々の意味を僅かに変えてしまったの。
   ただの仲間同士じゃなくて、もっと別の――

   「レナ、オレ達仲間なんだから、
   嬉しい事はもちろんだけど、
   悲しい時、困った時もちゃんと話し合おうな」
   「うん!もちろんだよ、だよ〜」
   「ああ、仲間同士だからな!」
   軽く頷いて見せたものの、
   レナは初めから、家のあの事情は言うつもりは無かった。
   相談して解決する事ではないし、
   何より、余計な心配を掛けてしまうから。
   だから単純に、圭一くんに合わせて相槌を打っただけだった。
   だけど――

   「・・・いつか、気が向いた時で良いから、
   何かあったら相談しろよ?」
   そう言って軽く背中を叩かれた。
   驚いて圭一くんの方を向くと、
   いつもと変わらず、あの元気の出る笑顔で笑っていただけ。
   レナの家の事情を知る訳はないのに。
   どうして、そんな事を言ったのか、よく分からなかったけれど。
   でも鼻の奥がツンとして、レナは何も言えなくなってしまった。



   多分、あの時から、
   レナは圭一くんに恋をした――










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