恋は卑怯。
「おはよ〜、圭一くんっ!」
「…お〜…っはよ、レナ。相変わらず早いな〜」
いつもの朝、いつもの時間。
それから、ちょっと欠伸混じりの挨拶。
レナはそんな毎日が好きだった。
特に、朝一番に圭一くんに会える、この時間が。
「あっ!レナ、そう言えば昨日の漬物ありがとな!
旨かったけど、特にお袋が絶賛でさ〜。
将来は良く気が利く奥さんになるとかなんとか、色々言ってた」
「…お、奥さん……はぅ〜…」
そう言って、ちょっと笑いながらお礼を言ってくれた。
もちろん私は、ちょっと照れてみせる。
でもね、圭一くん?
圭一くんは知らないでしょう?
レナはそんなにいい子じゃないよ。
いくら「レナ」が努力したって、
所詮「レナ」は「礼菜」だもの。
お裾分けだって、
こうやってちょっと照れた風にするのは、
圭一くんに…「いい女の子」って思われたいだけなの。
ただ、それだけ。
礼菜はそんな、心の優しい女の子じゃない。
やがて。
「おー、魅音おはよう。今日はヤケに早いじゃねーか」
レナの親友との待ち合わせ場所に着いた。
圭一くんが来るまでは、
魅ぃちゃんと、ここでこうして二人で待ち合わせをしていた。
でも圭一くんが来てからは、
三人で朝からすごく賑やかになった。
それもすごく大切な時間。
・・・だけど―
もちろん魅ぃちゃんは大好きだし、
今でも本当の本当で大親友だけど…
でも、圭一くんと仲良されちゃうと、ちょっと悲しい。
焼もち…だって、もう随分前から分かっている。
それから、親切な魅ぃちゃんに対して、
すごく失礼な気持ちだって事も、ちゃんと分かっているの。
だから本当の私は「いい子」じゃないけど。
「礼菜」は「レナ」で、もっといい子を演じるよ。
魅ぃちゃんも大好きだし、
何より圭一くんにもっと良く思って貰いたいから。
・・・ねぇ、圭一くん。
レナは本当はこんなに卑怯で嫌な子なんだよ?
「…何だよ、レナ?どうかしたか?」
「うんうん、何でもないよ。
それより、今日の部活楽しみだね、だね?
魅ぃちゃん、今日の部活の予定は決まっているのかな?」
私は今、ちゃんと笑えてるかな?
寂しそうな笑顔じゃなくて―
「礼菜」じゃなくて「レナ」の笑顔になれてたかな?
魅ぃちゃんにも、圭一くんにも、
同じように笑えてる?
「おー、じゃあ、オレが一番になって、
レナに罰ゲームさせてやるぜ?」
・・・ちゃんと笑えてたからかな?
よく、分からないけど。
圭一くんはそう言って、頭をくしゃくしゃって撫でてくれた。
あの、いつものはにかんだ笑顔で。
「礼菜」は卑怯な子だけど、
でも圭一くんはもっと卑怯――。