君の中で溺死   → お題配布 tiptoe 様




   一瞬、遠くで名前を呼ぶ声が聞こえたと思ったら、
   身体が、何か柔らかい物に当たった。
   衝撃はあまり無く、代わりに伝わるのは、心地良い温度。

   「け、圭一くん!大丈夫かな、かな?起きれそう?」

   耳元で、心配そうなレナの声が聞こえる。
   でも、視界は塞がれていて、
   頭も何だか良く回らない。

   ――オレ、どうしたんだろ?

   「今、圭一くんのお母さん呼んで来るから、ちょっと待っててくれるかな?」

   そう言うなり、先程までの温かさが遠のいて行くのが分かる。
   背筋に走る悪寒と、
   先程までの熱が遠のいて行く事に抵抗して
   オレは、知らず知らずの内に、腕に力を込めていた。
   温かくて、柔らかくて、それから、ほんのり甘い香り――

   「・・・け、圭一く〜ん・・・これじゃ、呼んで来れないんだよ、だよぉ・・・」

   弱々しいレナの声を、再度耳元で聞きながら
   熱を持ち始めた頭で、
   ようやく自分の状況を理解した。

   オレは、君の中で溺死したんだって。










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