だけど、それだけ、だけど
『だけど、それだけ。』
『それだけ、だけど。』
「・・・何書いてるんだよ、レナ」
ノートの上に影が重なり、同時に圭一くんの声がした。
驚いて顔を上げると、机を覗き込むような格好で
目の前に圭一くんが立っている。
「あ、うんとね、えと・・・入れ替えるだけで、
意味合いが変わる言葉だなと、思っていただけなんだよ、だよ」
ちょっとした興味から、
ノートに書いて考えていただけだったけど。
圭一くんにも、聞いてみたくなって
レナは持っていた鉛筆で、
書いた字を指すと、そう聞いてみた。
「・・・『だけど、それだけ。』と『それだけ、だけど。』・・・?
・・・・・・ちょっと違うだけじゃねーの?」
「はぅ〜、ちょっと違うだけじゃないよ、とっても変わるんだよ、だよ!」
ただ、圭一くんには
あんまり興味をそそられなかった言葉のようで。
入れ替えただけで、
意味合いは正反対となってしまう言葉なのに。
・・・やっぱり、圭一くんは女の子の気持ちに鈍感だけど、
こういう言葉尻にも、鈍感なんだと思う。
そう思うと、ちょっと意地悪をしたくなってしまった。
「じゃあ、例えばこれなら、どうかな、どうかな?
『圭一くんは優しくしてくれる。だけど、それだけ。』 と、
『圭一くんは優しくしてくれる。それだけ、だけど。』
ほらね?結構意味合いが違うんだよ、だよ〜」
「・・・・・・そもそも、その例文何なんだよ・・・」
思った通り、ちょっと目が泳いでいた。
そんな圭一くんの反応に、楽しくなってきてしまい
また意地悪をしたくなってしまう。
「はう〜・・・じゃあ、こういうのはどうかな、どうかな?
『圭一くんは優しくしてくれる。・・・だけど、それだけ?』」
そう言うなり、
机に肘をついて、手の平に顔を乗せて
わざと上目遣いに圭一くんを見てみる。
それからちょっと首を傾げて。
目が合った圭一くんは、
ほんのり照れているような、そんな感じがした。
圭一くんのそんな表情に、
ちょっとした意地悪が成功した事に、
真面目な顔を頑張ってしていたけれど、自然と笑い声が漏れてしまった。
余計気まずそうな感じの圭一くんに、本当に笑い声が出てしまう。
「・・・・・・・・・なら、その返答は、
『オレがレナに優しくするのは、
下心があるからに決まっている。それだけ、だけど?』」
ちょっとした意地悪で出した例文だったのに、
うっかり反撃されてしまった。
おまけに、圭一くんは開き直ってしまったのか、
そう言ったなり、含み笑いをしてこちらを見ている。
だから、
『圭一くんは優しくしてくれる。それだけ、だけど。』
今はそれだけでも、良いと思ってしまった。