バレンタインデー




   チャイムが鳴り、昼休みの終わりを告げた。
   それを合図に、先程まで広げられていた、
   甘い香りのするチョコレートも
   包み紙へと戻されていく。

   ――結局、包装を解いてもらえなかった、な・・・・・・

   バレンタインの今日は
   いつも通りお昼を食べ終わると、
   圭一くんに、それぞれ
   手作りのチョコレートを手渡していた。
   一人一人からチョコレートをもらった圭一くんは
   すっごい上機嫌で、
   『笑みがこぼれる』って表現がぴったりな位で。
   レナも、少し分けてもらって食べたけど
   手作り特有の優しい甘さで、とっても美味しかった。
   ただ、レナのだけは、中身を見てくれなかったけれど・・・

   手作りチョコレートの
   優しい甘さとは不似合いな気分のまま
   結局、その日は帰路に着いた。
   圭一くんとの別れ際で
   手を振るう、その掌には、今日もらった紙袋。
   甘くて、美味しいチョコレートの。
   ――だから、思わず言ってしまった。
   今更、そんな事言わなくても良かったのに。

   「・・・無理にじゃ、無いから・・・・・・」

   正面を向きかけた圭一くんは、
   多分、レナが何を言いたかったのか
   分からなかったんだと思う。
   きょとんとした顔のまま、こちらを向いた。
   だから、言わなければ良かったと後悔しても、
   『何でも無い』とは引っ込め辛くて。

   「あ、あの、だから・・・・・・チョコレート・・・
   無理に食べなくても、大丈夫、なんだよ、だよ・・・・・・」

   可愛くラッピングされた他のチョコレートを、
   美味しそうに頬張っていた圭一くん。
   そんな光景を、ぼんやりと思い出しながら、再度言った。
   レナのチョコレートには、
   包装紙にすら、手を付けようとしてくれなかったから――
   他の可愛い紙袋を見ていられなくて、
   思わず、下を向く。

   「何言ってんだよ」

   でも、
   レナの言葉とは裏腹な、そんな言葉が耳に届いた。
   もう一度、圭一くんを見上げれば
   とても嬉しそうな顔で。

   「レナのチョコレートは、オレが独り占めするの。
   あ、もちろん、レナにもやらないからな!」

   そう言いながら、圭一くんは
   レナのチョコレートを、大事そうに持ち直した。
   その言葉の意味が、
   今の自分の気持ちと同じなのかは、よく分からない。
   でも、それでも良いと思った。
   だって、レナが一生懸命作ったチョコレートを
   大事に食べてくれるって、言ってくれたから。

   「うん、圭一くん、ありがとうなんだよ、だよ」
   「・・・って、それはこっちの台詞だろ?」
   「うん、でも、すごく嬉しいから。
   だから・・・ありがとう、圭一くん!」

   圭一くんの言葉一つで
   今の気持ちは、
   チョコレートよりも甘いから。










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