真っ赤なお鼻のトナカイさんは、




   最近、教室の中が騒がしい。

   お祭り好きの魅音はもちろん、
   その魅音に始終、指示を出されている下級生達も
   決して反発する事なく、
   むしろ、嬉々として作業をこなしている。
   それは、沙都子や梨花ちゃんも例外ではなく。
   おまけに、知恵先生すら、どこか落ち着かない様子。

   オレはそんな様子を、どこかぼんやりと眺めながら、
   切られた折り紙を、リング状に糊で貼り付けていた。
   横ではレナが、丁寧に四つ折りにした折り紙を
   黙々とカッターで切っていく。

   「・・・・・・なぁ、何か今更だけど・・・・・・
   ここまで本腰入れてやるものなのか?
   たかだか、参観日兼ねてのクリスマス会だろ?」

   のんびりと糊付けしながら、
   忙しそうに動く生徒を他所に、
   オレはレナに話しかけた。
   集中していたのか、ややあっての反応。

   「・・・・・・え?あ・・・そっか。
   圭一くんは初めての、クリスマス会なんだよね!
   う〜ん、確かに生徒数は少なくて、
   参観日って言っても、そこまで大人数は集まらないんだけどね・・・
   でも、皆で下準備とかするのが楽しいから、
   いつもすごく楽しみにしてるんだよ、だよ〜!」

   先程までの表情は、すごく真剣だったのに
   今は、部活で見せる様な『楽しくて仕方が無い』っていう顔だった。
   そう言えば、昔はオレも
   こんな風にワクワクして過ごしていた気がする。
   ――いつから、思わなくなったんだろう?

   「・・・勝手なイメージだけど、東京の学校とかって、
   クリスマスのイベントとかはやらなそうだよね?
   その代わり、お家とかでは、
   クリスマスパーティーとかしてそうな気がする・・・
   圭一くんのお家とかは、何かしてたりするのかな、かな?」
   「・・・・・・小さい頃は、そこそこやったりもしたけど・・・」

   サンタ自体を信じなくなったせいもあるけど、
   『クリスマス』そのものが
   どうでも良くなっていた気がする。
   むしろ、そのイベントで
   街が浮かれ騒ぐのさえ耳について――

   「・・・・・・そう言えば、レナってさ、サンタみたいだよな」
   「ふぇ?サンタって、あの白いお髭のサンタさんかな、かな?」
   「そ。それで、オレがトナカイ」
   「・・・はぅ〜、トナカイな圭一くん・・・カァイイ・・・」

   いつも、笑い者にされていた訳じゃないけど。
   いつも、泣いていた訳じゃないけど。
   でも、『あの時』のオレは確かに、

   「赤鼻したトナカイ、とかね」
   「・・・・・・」

   全ての事から逃げていた
   あの時のオレには、
   クリスマスなんて無縁だったから・・・・・・

   「でも、もしも、」
   「ん?」
   「もしも、レナがサンタさんで、圭一くんがトナカイさんなら、
   クリスマスの夜は、ずっとずっと一緒にいられるんだね、だね!」
   「!」

   ――やっぱり、オレは
   『真っ赤なお鼻のトナカイさん』かもしれない。
   サンタに言われた一言だけで、、
   毎年泣いていたトナカイが、喜んだように。










   main / back / next