距離間:15−45 → 0−15(cm)




   隣を歩いている時、
   手を伸ばせば、簡単に圭一くんに触れられる。
   だけど、ただ歩いているだけでは、絶対に触れ合わない。
   レナと圭一くんは、いつもそんな距離だった。
   なのに――


   「・・・レナ、もうすぐ授業始まる・・・って、何やってんだよ?」

   この日に限って、
   先に行ったはずの圭一くんの声が、背後から聞こえた。
   休み時間もうすぐ終わり、
   そろそろ体育の時間が始まる。
   その間際に、自分だけ教室に残っていたのだけれど。

   「ちょっと、風で取れかかっていたから・・・」

   壁に飾ってあった、習字の半紙を貼り直そうとして
   横着をして、椅子も使わず、
   背伸びをしながら画鋲で止めようとしていた。
   でも、レナの身長より、わずかに高かった場所で。

   「・・・ちょっと無理あるだろ?やってやるよ」

   その言葉に、レナが振り返るよりも早く
   目の前に影が掛かった。
   そして、いつもの距離間が失われる。
   もう少しで触れそうで、触れなくて、
   でも、圭一くんの体温や息遣いが、ほんのり伝わってくる距離。
   レナの後ろから、手を伸ばしてそれを貼り直していたから――

   「・・・よし、止まった!って、時間ねえっ・・・レナ、走るぞ!」

   それからレナの手を取ると、圭一くんは走り始めてしまった。
   校舎を出て、運動場に着くまで、ずっと手を繋いだままで。


   ただ、隣を歩いているだけでは、絶対に触れ合わない距離なのに。
   ――圭一くんには、もう少し、距離間を考えて欲しい。
   そうじゃないと、その距離間に、
   レナへの圭一くんの気持ちを、期待してしまうから。










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